【野球】なぜ阪神はオリックス・宮城大弥に今季初黒星をつけられたのか 107球の攻防に隠れたサイン
「阪神8-2オリックス」(7日、甲子園球場)
5回まで1安打無得点。立ち上がりから付けいる隙を与えなかったように見えたオリックス・宮城大弥投手。だが、阪神は六回に森下翔太外野手に逆転9号3ランが飛び出すと、七回にも近本光司外野手が通算1000安打となる一塁線を破る適時二塁打を放って難攻不落の左腕を沈めた。どこに攻略のポイントがあったのだろうか。
封じ込まれているように見えて、不思議に感じていることがあった。5回までに出塁したのは、初回2死から遊ゴロ失策の森下と、三回2死からチーム初安打となる中前打を放った近本だけ。二、四、五回は三者凡退に打ち取られていた。5回終了時の球数は73球。特別多い球数ではないが、5回1安打無失点の成績にしては、少し多いと感じられる球数だった。
そこに宮城攻略への糸口があったとみる。初回1死で中野は見逃し三振に倒れたが、宮城に12球を投げさせた。四回先頭の森下も見逃し三振ながら12球、佐藤輝も遊ゴロながら8球を投げさせていた。七回にも四球を選んだ坂本が9球粘っていた。
その内訳が興味深い。宮城が投じたこの日の107球中、実に阪神打者は27本ものファウルを重ねていた。見逃しストライクが22球、結果球が20球、ボール球は31球を数えたが、空振りした球は、わずかに7球にとどまっていた。
四回先頭の森下はフルカウントからの内角球を見切り、悠然と一塁に歩き出していたが、白井球審の右手は上がった。その他の場面でもボールと判断した球をストライクとジャッジされる場面があった。安打は出ていなかったが、完全に封じ込まれているという印象は少なかった。
2点ビハインドの六回、代打・豊田が右前打を放ち、この試合で初めて先頭打者が出塁した。近本が右前打で続いた。一、二塁となって代走・島田を二塁に送り込んだが、中野の送りバントが左投手が処理しやすい投手左側へのゴロとなって三塁封殺。スタンドはため息に包まれたが、森下の心持ちは違っていた。
「それまでの内容も悪くなかったんで」。遊ゴロ失策、見逃し三振に終わっていた2打席でも、それまでに14球を体感し、1球も空振りせずにファウルで6球も粘っていた経験が生きた。カウント1-1から直前にワンバウンドしていたフォークが、ストライクゾーンに入った。森下のフルスイングが勝り、左翼席への逆転3ランとなった。
七回に一塁線を破る適時二塁打を放った近本もそうだ。第3打席までの11球で空振りはゼロだった。選手個々が必死になって粘った。空振りが奪えず、ファウルを積み重ねられた。1球、1打席の集積が大きな束となって、最終的に宮城の制球を少しだけ狂わせたという見方ができるだろう。
藤川監督は言った。「前半戦は宮城投手の持っている能力といいますかね。我慢強く、こちらはチャンスをうかがうという展開だったんですけど、中盤から後半にかけて、こちらに流れが来たなと」。今季2度目のサヨナラ勝ちを飾った前日6日もそうだった。0-0の投手戦から、延長十回に木浪が劇打。根比べ、消耗戦、我慢比べはお手の物。逃げのファウルではなく、攻めのファウルが、宮城攻略の一端になった味わい深いゲームだった。(デイリースポーツ・鈴木健一)